二枚の戦争体験画『噫、牡丹江よ!』を二宮で展示いたします!

 8月3日、母のいる埼玉県の老健施設に向かう。あまりの暑さに長い道のりにへこたれそうになるけれども、母が最近食欲がなく、体重も減ったというので、ぜひとも顔を見ないことには。さらに大事なことは、施設のある埼玉県に住んでいる妹に、今回の二枚の戦争体験画について、またなにより、昨年9月の実家の台風被害の修理についても相談しないといけない。この日は三者会談の重要な局面というわけだ。

 妹夫婦はこれまで現場をみてなかったのだが、わたしが二宮に行ったあと、ついこのあいだ二宮に行ってきたというのである。それなら、あのアトリエに至る階段上の天井内壁の崩落の悲惨な光景も見たであろうし、新しく発見された『噫、牡丹江よ!』も見ただろうから、急転直下、二枚の戦争体験画『噫、牡丹江よ!』が西新宿住友ビル33階平和祈念展示資料館に収蔵されることになったということは、ともにわかちあいたい「災い転じて福となす」の奇跡である。

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 母は思ったより元気そうであったが、やはり食が細くなった分、やせたのは否めない。でも、来年は95歳になるのだと思えば、ほんとうにこうして話もできることはありがたいの一言に尽きる。自然の成り行きとして食べる量は減ってくるかもしれないが、検査の結果、内臓に異常が見られなかったというので、ほっとした。このところ、手紙の返事にいつも送ってくれる自筆の絵手紙やハガキが送られて来なかったことで内心不安があったのだが、顔をみれば、目を見れば、安心である。

 そして、今日はひさしぶりに母からハガキが届き、さらにわたしは胸をなでおろす。

 7年間のうつのあいだ、わたしは字を書けなかった。文字を読むことも電話に出ることも、新聞はもちろん、テレビをみることすら、いや見てもその意味をするところを理解できなかった。

 高齢者を先取り体験したようなわたしであるから、自分の手で文字が書けるということが、どれだけ脳と身体との関係の正常性を示すかが、身をもってわかるのである。わたしはそのころ、手も足も次第にリウマチ症状をあらわしてきて、日常生活にも支障をきたすようになっていったからだ・・。

 さて、ありがたいことに、持参した修理費用と展示費用の経費見積もりを前に侃々諤々の話し合いの結果、修理費用の一部はなんとか妹が母の資産のなかから算段することになり、残りの費用と展示費用はこの際、二宮の風景画を希望する二宮の方々にもらっていただくことで捻出するというわたしなりの提案を話す。

 自分の家が描かれていたり、かつての懐かしい二宮の風景が描かれていたり、ということが、どれだけ地域の方々の心に響くか、それはまだわからない。しかし、今までの山本義一遺作展では、とりわけ二宮の風景画が住民の方々に評判が良かった。絵によって、あらためて自分たちの住む場所の良さに気が付いた・・、という声をたくさん聴かせていただいたものだ。

 実は、災害指定区域について二宮でも県のくわしい調査が入ることになったという。

 大磯二宮地域は海と山が近く、それが魅力的な湘南の風景をつくっているのだが、それはひとたび自然が牙をむけば、災害につながりかねない、ということを意味してもいる。

 工務店の方に言わせれば、日本全国がそういうエリアだらけだ、という。

 確かに、ハザードマップを見れば、驚くほどに指定エリアはあちこちにある。

 であれば、いまわたしたちが目にしている風景は、貴重なものだということでもあろう。ついこのあいだの風景が、開発によって、あるいは逆に地域の過疎化などによって、著しく姿がかわっていくことは私たち誰でも知っている。災害というファクターをここに加えざるを得ないのは、このところの異常気象続きを思えばしかたがないのかもしれない。わたしたちは被災地という場所は、けしてよその土地とばかりはいえない、と思いながら、つい忘れているのだ・・。

 もし、なじみの風景が変わってしまったら、それがふるさとであればよけいに、こころにぽっかり穴が開いたように感じることだろう。もし山本義一が描いた二宮の風景画が、そんなこころを癒し慰めてくれるのであれば、そして、絵によって、二宮のかけがえのない風景を大事に残し伝えていこうと思ってもらえるのであれば、それは絵にとってもいちばんうれしい成り行きであろう。

 わたしも、父親が描いた自宅の絵が大小さまざまに三枚もあるので、これを父はわたし達のために描いたのかなあとも思っている。(屋根の色は変わっているけれど)

 65歳になって移住した湘南の光あふれる二宮の地は、父の故郷である伊豆を彷彿させたであろう。 

 地域の風景画を描くことによって戦争で受けた心の傷をいやすことができ、自身のこころの奥底に封印していた戦争体験に向き合うことができた。戦争体験をことばの代わりに絵として80代にして表現しえたのは、遺言のつもりであったろう。

 風景画という「光」を描くことで、「闇」としての戦争体験画を描くことができたのだとすれば、風景のもつ力は、やはり侮れないと思う。

 そんなわけで、山本義一の家族の了解を得て、山本義一遺作展vol.3を開催することとなりました。夢を現実化するために、まだまだ様々な案件が目の前にありますが、シスターの祈りの力によって、また「うつぐみ」力によって乗り越えていけることを信じています。

 以下は、展示のお知らせです。

●山本義一遺作展vol.3 「二枚の戦争体験画と二宮の風景画—―闇と光」展  平和祈念展示資料館収蔵記念展示!

●期間  2019年9月19日(木)~23日(月・祝)

●場所  二宮町生涯学習センター「ラディアン」ギャラリーにて。

●時間  10時から17時まで。19日は13時から、23日は16時まで。

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 また、ありがたいことに、クロワッサンのライター時代に仲間であった室田元美さんのご好意によって、9月20日(金)14時から、ラディアンのミーティングルームで室田さんの講演会『土地の記憶  戦争の傷痕は語り続ける』を開催する運びとなりました。

 室田さんは2017年に行った細川貂々さんとのトークイベントに、はるばる二宮町ラディアンまで来てくださっています。そのおりに会場もご覧になっているだけに、事情もわかってくれているはず。ほんとうにありがたいことです。

 室田さんが上梓したばかりの同名のルポについてのお話と、山本義一の戦争体験画についての吉江とのトークも行う予定です。

 どうぞ、みなさま、お近くの方もそうでない方も、ぜひお運びくださいませ!!

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