竹富島ゆがふ館での展示準備に行きました!その1

 4月22日から八重山に来ている。
 竹富島での山本義一のゆがふ館展示の準備のためだ。
 しかし、船便で依頼した絵が、まだゆがふ館に届いていない。
 スタッフの都合もあり、23日は竹富島にわたったものの、一日待機日となった。

 民宿の娘が、この日石垣島から同行してくれることになった。ちょうど21日が旧暦の3月3日。サニツと呼ばれる大潮の日で、一年中でもっとも潮が引くこの日は「浜下り(はまうり)」と呼ばれる行事が行われる日だ。
 女性が浜に行って、潮干狩りをしたり、持参したごちそうをいただいたりして過ごすのである。
 潮がひいてどこまでも遠浅の海には、しゃこ貝やアーサやもずくなど普段は潜らなくては見えない海の宝物が突如、出現する。浜は竜宮城をかいまみさせてもらえる空間となる。海と陸のボーダーが、異界の入り口となってやさしく迎え入れてくれる。
 女性でも安心して歩いて沖まで行けるので、海からの贈り物をありがたくいただく絶好のチャンスというわけだ。

 そしてもうひとつ、この浜下りは女性が身を清めるという意味をもっている。
 民間伝承ではこんな話が言い伝えられている。
 ーー娘のところに夜な夜な通ってくる男を不審に思った家族があとを追ってみると、男の正体ははたしてアカマターという蛇だった。アカマターが、「娘が浜に下りて白砂を踏むと、お腹にいる子は流れてしまう」と言ったのを聞いた家族は仰天、娘は妊娠していたのかと驚き、娘を浜に連れて行く。こうして、娘はけがれのないからだに戻ったとさーー。 おそらく、望まない妊娠をした女性、自分がけがれたのではないかと感じている女性の救済策として、禊や祓い、お浄めとしての儀式が、この浜に下りるという行為にこめられているのだろう。実際、靴を脱いで裸足になって白い細かい星砂を踏めば、ほんとうに心身が清められるような気持ちになるから不思議だ。
 これは、実は理にかなっていて、濡れた砂や土はどうやら電磁波をアースすることができるらしい。電気製品に囲まれ、パソコンや携帯電話を日常的に使っているわたしたちは、ときには裸足で土を踏んで、帯電したからだから電気を放電する必要がある。こうすることで、心身の浄化のみならず、血流をよくするなど様々な健康上の利点につながるというわけだ。
 待機日の23日、石垣島に住む民宿の娘が車で一日つきあってくれるというので、わたしは浜下りの前に、まずは島の御嶽の神々に山本義一の展示の御礼に行くことにした。
 自転車で廻るには炎天下のこの季節、とてもじゃないが六山八山の御嶽を全部廻るのはむずかしかっただろう。

 島の英傑で、はじめての首里王府の役人となって竹富島カイジ浜に蔵元(役場)を置き、八重山を統括した西塘のウタキ。種子取祭の行われる世持オン。隣の玻座間オン。真知オン。学校に隣接する清明オン。仲筋オン。幸本オン。中世の村全体を聖域として拝むかたちで拝所が作られている久間原オン。花城オン。波利若オン。東御崎オン。あいにく国仲オンはまわれなかったが、西塘大主に、「むーやまやーやまのほかの神々にもよろしくお伝えくださいませ」と頼んでおいたので、これでお許しいただこう。
 さあ、そろそろ浜に下りる時間だ。
 浜は潮が引いて、アーサが岩にへばりついている。靴は脱がずに、そのままじゃぶじゃぶと海に入る。持つものはもずくを入れる網、そして飲み物のみ。デジカメも濡れてはいけないと注意され、もたずに海に入った。
 すべりそうな岩場は注意が必要だが、白砂の浜はひざあたりまでの海水で、歩きやすい。黒いもずくがゆらゆらとあちこちに生えている。ほかの海藻もたくさん繁茂しているので、もずくだけを狙って手をのばすと、おもしろいように収穫できた。
 もずくはたくさん生えているところとまったくないところがあって、あたり一面もずく状態のところは、とってもとってももずくがある。気が付けばすぐ網はいっぱいになり、これをひきずって浜に戻る時が重くて重くてきつかった。欲をかくと運べないのである。なによりの教訓であった。
 しゃこ貝は岩に埋まるようにして波状の口をちょっと開けているのをみつける。不思議なことに硬い岩にめり込むようにぴたっと入り込んでいるのを刃物でとる。そのまま海水で洗って、生の貝を味見させてもらう。まさに海の恵みだ。もずくもアーサも、そのままだと海水の塩味がけっこう強く感じられた。
 岩に囲まれた一角には、小さな青い魚がたくさん群れている。流れが弱く海水温が高いためだろうか。鮮やかなブルーの小さな魚が白砂の上をくるくると泳いでいる小宇宙は、まさしくミニ竜宮城。いつまでも青い鳥ならぬ青い魚を眺めていたかった。
 かくして大量のもずくとともに民宿にもどる。が、なんと、もずく塩蔵用の塩がもずく収穫フィーバーのため売り切れて在庫がなく、そのまま民宿の冷凍庫へ。
 こうして、一日が終わり、かんじんの絵の到着を確認すべく船便会社に確認すると、荷物はあしたの朝に到着するという。
 あしたは、展示準備ができるだろうか。