民泊は楽し!

 沖縄南部の南城市に行く機会があり、貴重な体験をさせてもらうことができた。
 ハーブ生産者をたずねると、ちょうどこの日、民泊の高校生たちが宿泊することになっているという。そんな機会はなかなかないので、『民泊』なるものを女子高生と一緒に体験することにした。
 民泊とは、民宿は違ってただ単に宿に泊まるというのではない。一般の民家に泊まって、その家で一緒に暮らす。いわゆるホームステイである。短期の同居人であるから、その家の家業を見学もしくは手伝い、ご飯も一緒に食べ、その土地の文化を体験するなど、よりふれあいの濃い時間がもてる。
 その日、午後3時に高校生たちがやってくるというので、金城さんのお父さん、娘さんとお迎え場所に行くと、たくさんの受け入れ先の南城市の方々が集まってきていた。受け入れる高校生の名前を記したナンバーカードを手にしている。

 ずらりと並ぶスーツケース、実に360個。圧巻である。
 そこに大型バスが次々と姿を現す。その数は9台ほど。
 バスガイドや旅行会社の人が仕切り、ようやく高校2年生生9クラスの子どもたちが集合場所に座り、歓迎式が始まった。なんとこの日、やってきたのは柏南高校の子どもたち、柏は偶然にもわたしの住む町の隣町だ。
 南部戦跡をたずね、沖縄戦で住民が隠れていたガマを見学したあとだという高校生たち。彼らの顔は無表情で、疲れが出たのかこころなしか硬かった。
 スピーチのあと、沖縄民謡に合わせて滑稽ないでたちをした歓迎の踊りがはじまる。
 一気に会場は爆笑にはじける。
 指笛がとび、手拍子が起こり、ついにはひとりの男の子が誘われて踊りだす。
 これですっかり場の空気が一変した。さすがに芸能の力である。
 高校生はそれぞれの宿泊先のナンバーカードめざして、スーツケースを転がしながらお迎えの人のところにやってくる。金城家に迎えいれるのは、4人の女子高校生だった。
 金城さんの車に分乗して向かったのは、浜であった。ここは琉球開闢の神アマミキヨが久高島からはじめて沖縄本島に上陸した聖地ヤハラヅカサ。神が一休みした場所には浜川御嶽がある。
 ここではお浄めの意味で浜を歩いてもらうのだという。
 おりしも干潮で海のなかには、ヤハラヅカサと刻まれた神石が立っている。アマミキヨはこの石に船をとめたのだろう。
 金城家に帰ると、ハーブを収穫してエッセンシャルオイルとハーブウオーターを抽出する作業をみんなで行う。

わたしたちはローズマリーの化粧水を作り、さらには好みのエッセンシャルオイルを使って練香をつくる作業に没頭する。作ったものはおみやげに持って帰れると知って、「超うれし〜い」。
 みんな大喜びである。
 ハーブは完全無農薬、みつろうはハーブ園で飼っている蜂が集めたもの。しかも、お母さんがドイツ波動医学の波動測定器でその人に合ったエッセンシャルオイルを調べてくれるというおまけがついた。自分の好きな香りを選んで作った練香が、はたして自分にあっているのかどうか、ハラハラドキドキ、なかなか楽しいハーブ体験であった。
 夜はお父さんと、高校生の孫ふたりと叔父さんによる三線ライブを楽しむ。

 最後は『唐船ドーイ』のカチャーシーで終わる。
 と、まだまだお楽しみはあった。
 夜になって、娘さんが女子たちが大好きなタロットカード占いをはじめると、疲れも忘れてみんな夢中になっている。
 どうやら女子たちの悩みは、恋と進路のふたつに絞られるようだった。そういうお年頃ではある。
 翌日は、「屋根のない博物館」を標榜する南城市だけあって、豊富な歴史スポットをめぐる。垣花ヒージャー、玉城城跡を訪ねたあとは、沖縄ワールドへ。



 真南風という芸能グループのショーを見に、たくさんの民泊グループの高校生たちが集まってきていた。わたしたちも一番前の席でショーを楽しみ、お定まりのカチャーシーで盛り上がる。昨夜おぼえたばかりのカチャーシーでは、なかなかのれない子もいたようではあったけれど。
 しかし、そう思っていたのはわたしの勘違いで、帰ってすぐに三線教室が始まると、女子4人は真剣そのもの、三線の基本が身に着くとお父さんが言う『チューリップ』を2時間足らずでマスターしてしまった。
 お昼に、お母さんと娘さんが作ってくれたホーリーバジル麵のソーキソバを食べ終わると、また女子たちの三線練習が始まる。
 最後には全員で合奏した映像を撮影することができた。
 あっという間に1泊2日の民泊体験はおわり、わたしたちは記念撮影もそこそこにスーツケースを積み込み、最初にバスが到着した集合場所へ。
 そこには各家々から次々に高校生グループが集っていた。
 南城市のそれぞれの民家での過ごし方はどうだったのだろう。
 誰もが、別れを惜しんでいる。学生たちが来た時とは別人のように豊かな表情ですなおに感情を表現しているのが印象的だった。
 みんなそれぞれの家族に手を振り、先生たちの指示に従って各クラスごとに集合して座り込む。こうして最初にお迎えしたときの光景が再現されていく。
 学生代表のスピーチ、受け入れ先の民家代表のスピーチが終わると、いよいよみんなクラスごとにバスに乗り込んだ。
 しかし、来た時とはあきらかに違った。全員がバスに乗り込むのはかなりの時間がかかるのだが、お見送りのカチャーシーを誰かが踊りだすと、別れの時間がかけがえのない貴重なものになっていく。
 おじいが指笛を鳴らし、おばあが踊る。高校生のキャリー付きスーツケースに乗って帰らせまいとする小さな子どももいた。お母さんに抱かれている幼子ですら、手を振り、手踊りでカチャーシーを踊ってなごりを惜しんでいる。

 沖縄ワールドで購入したのか、パーランク―を鳴らしていつまでもいつまでも踊り続ける男子たち。まるでアイドルのようなおそろいのブラウスと白いスカートを着た女子たちのなかには、涙を流している子もいる。おじいは孫を送り出すかのように、いつまでもいつまでも手を振り続ける・・・。
 高校生たちが大人になったら、きっと沖縄が大好きな人になるだろう。
 お世話になったおうちの人はいまどうしているかなあ、そう思うこともあるかもしれない。どこか別の場所に別の世界があることを知っただけでも、その思い出は彼らの人生に必ず役立つ。
 沖縄での民泊体験ってほんとうにすばらしい!