二宮町での「おきなわんナイト」で寄稿した『女が男を守る 沖縄のうない神信仰』の文を紹介します。

 11月5日に開催された二宮町での「海と山と空と  おきなわんナイト」。
 この会場で、織物と女性の力についての文をパネルにして、大森一也さんの写真展コーナーに展示していただいた。
 その文は、竹富島に通ってきた25年間、お話をうかがった喜宝院の蒐集館館長の上勢頭芳徳さんへのオマージュでもある。彼のひとことがきっかけで『コーラルウエイ』での連載『南の島のラブストーリー』の企画に繋がり、『ヤマト嫁  沖縄に恋した女たち』(毎日新聞社)に結実したからだ。
 その文を掲載したい。


女が男を守る―沖縄のうなり神信仰


 沖縄には、女の姉妹「うなり」(うない)が男の兄弟「えけり」を守護するという信仰があります。
 姉や妹の霊力(セジ)が、男を守る。
 琉球国王は、自分の妹や王妃を聞得大君(きこえおおきみ)という最高位の神女(かみんちゅ)に就任させました。
 国家の安泰を祈願する神女(巫女)の集団を作り、各離島にまで神女が組織的に配属されていたのです。
 戦や飢饉のおりには、ノロ八重山諸島では神司・かんつかさ)と呼ばれる神女が、聖域である御嶽(うたき)で祈りをささげ、島人に託宣を授けました。
 いわば男が行う政治は、女のセジによって支えられていたというわけです。
 この信仰は庶民にも浸透していました。
 男が戦や旅に出るときには、船の艫に白い鳥がとまると、うなり神のシンボルとみなされ、船を安全に導くといわれました。
 竹富島では、旅に出る男たちの無事を祈って、女たちはティサージ(てぬぐい)を織りあげ、兄弟や恋人にお守りとして贈りました。
 ティサージには、うなりの霊力が宿り、不思議な力を発揮するとされました。
 そのお礼に、男が女に贈るのは、ビーズかシークワーサーなどのかんきつ類で作った首飾り。首飾りを身に着け、思いを受け取った女が織りはじめるのが、竹富島のおみやげとして有名なミンサー帯です。
 ミンサーとは、綿狭からきた呼び名で、細い帯をいいます。
 藍で染めた絣文様は、五つと四つの玉模様。「いつの世までもあなたとともに」というメッセージがこめられている――というのは後の時代に考えられたキャッチコピーかもしれません。
 しかし、思いをこめて織られた帯には女の霊力(セジ)が込められているとされました。
 五つと四つの玉模様の両脇には、ムカデの足のような文様が配されます。通い婚時代「ムカデのように足しげく通ってほしい」という暗号をこめたものだといわれています。
 いよいよ婚礼となると、花嫁の頭巾には九つと八つの玉模様。くくるぬ はまい」、心がはまるように、というわけです。
 恋の階段を一歩一歩のぼっていくたびに登場する織物は、その一織り一織りに女たちの想いが込められ、恋を成就させるばかりか、男たちを災難や魔から守る不思議な力を持っていたのです。
 島の織物は、芭蕉や苧麻など島の植物からとった繊維を、藍や福木、山桃などの植物染料で染め、織り上げたもの。
 とりわけ、生成り色の芭蕉で織った神司衣装には、特別の意味があります。
 島宇宙のいのちを紡ぎ、女の霊力と祈りをこめた芭蕉の着物。それを羽織るとき、神司たちは俗界の人から、神の世とこの世を結ぶシャーマンへと変身するのです。
 森羅万象に神が宿る――。
 島の草木の一本一本に神が宿り、それは織物となって、まとう人に霊力を授け、その身を守る。
 自然と人が感応しあっていた時代の名残が、島の織物にはあらわれているのではないでしょうか。女性は、自然からのメッセージを受け取る力をもっているのだとわたしは思います。

文責 吉江真理子
竹富島喜宝院蒐集館館長 上勢頭芳徳氏取材)